ステンレス鋼溶接の基礎知識:割れ・腐食対策から溶接法まで徹底解説

ステンレス鋼溶接の基礎知識:割れ・腐食対策から溶接法まで徹底解説

ステンレス鋼溶接の注意点と歪み防止策

ステンレス鋼は、その美しい外観と優れた耐食性から、様々な産業分野で広く利用されています。
しかし、溶接時には特有の注意点があり、適切な対策を講じないと、割れや腐食などの問題が
発生する可能性があります。

この記事では、ステンレス鋼溶接時の注意点と歪み防止策について、学会の講習会資料や
文献を参考に解説します。

オーステナイト系ステンレス鋼の溶接性

オーステナイト系ステンレス鋼は、炭素鋼に比べて比較的容易に溶接できます。
しかし、溶接条件や環境によっては、**高温割れ(凝固割れ)、粒界腐食、
応力腐食割れ(SCC)**などが生じることがあります。

(1) 高温割れ(凝固割れ)

オーステナイト系ステンレス鋼溶接時に最も発生しやすいのが高温割れです。
これは、溶接収縮歪みが原因で発生し、割れの形態としては縦割れやクレータ割れなどがあります。

溶接金属中のリン(P)と硫黄(S)の含有量が多いほど高温割れ感受性は高まりますが、
フェライト量が多くなると高温割れの発生を抑制できます。
オーステナイト系ステンレス鋼溶接金属の凝固割れ感受性は、フェライト量と密接な
関係があると言われています。

(2) 腐食

一般的に、ステンレス鋼は腐食しにくいと思われていますが、それは**クロム(Cr)**を
12%以上含むステンレス鋼が、腐食環境下で優れた耐食性を示すためです。

Crは腐食環境下で酸化し、水と反応して緻密な水酸基皮膜を形成します。この皮膜が腐食の進行を阻止し、ステンレス鋼の耐食性の根源となっています。この膜は不動態皮膜と呼ばれています。

(3) 応力腐食割れ(SCC)

応力腐食割れは、以下の3つの条件が満たされた場合に発生する現象です。

  • 材料: 鋭敏化、不純物など
  • 環境: 温度、塩化物など
  • 応力: 残留応力、外部応力など

応力腐食割れは、**活性溶解型(APC)水素脆化型(HE)**に大別されます。
狭義の応力腐食割れは、活性溶解型のみを指します。

(4) 熱影響部の鋭敏化

溶接熱影響部は、1000℃以上に加熱された溶体化部と、500~850℃程度に加熱された
炭化物析出部に分けられます。

炭化物析出部では、オーステナイト粒界にCr炭化物が析出し、粒界近傍のCr固溶濃度が
低下するため、粒界腐食を起こしやすくなります。

このようにCr炭化物が析出し、粒界腐食感受性が増す現象を鋭敏化といいます。
腐食環境中では、この部分にウェルドディケイと呼ばれる溝状腐食を生じることがあります。

鋭敏化防止策:

  • 溶接方法および溶接条件の適切な選定により溶接入熱を小さくするか、水冷しながら溶接し、
    Cr炭化物が析出しやすい鋭敏化温度域(500~850℃)の冷却速度を速くする。
  • 0.03%C以下の低炭素ステンレス鋼(SUS304L、SUS316Lなど)を使用する。
  • Ti、Nbなどを添加した安定化ステンレス鋼(SUS321、SUS347)を使用する。
  • 粒界析出を起こした材料は溶接後、炭化物を固溶させるため固溶化処理(1000~1100℃加熱後
    急冷)を施す。

ステンレス鋼の溶接法

ここでは、代表的なオーステナイト系ステンレス鋼 SUS304 を例に、溶接法を分類します。

溶接法としては、GTAW(ティグ溶接)、GMAW(マグ溶接、ミグ溶接)、ろう付け、はんだ付け、
スポット溶接、YAGレーザ溶接などがあります。

ティグ溶接(GTAW)

ティグ溶接は、溶接性が非常に良く、高精度で高品質な接合部を形成できるアーク溶接です。
特に溶接部の美観が求められるステンレス製品に多く用いられます。

しかしながら、溶接速度が遅く、溶け込みが浅いという欠点もあります。溶接速度が遅いと
溶接入熱が多くなり、溶接変形などの問題が生じやすくなります。

薄板の歪み防止策(ティグ溶接の場合):

  • 銅板などでバッキングをする。
  • 溶接近傍を冷却する。
  • 高速パルスを利用する。
  • 水素含有のシールドガスを使用し、溶接速度を速める。

近年では、ステンレス鋼の深溶け込み溶接法として、2重シールドトーチを採用し、
外側に特殊酸化性ガス、内側に不活性ガスを使用したAA-TIG溶接法も実用化されています。

まとめ

ステンレス鋼の溶接は、適切な知識と対策をもって行うことで、高品質な溶接結果を得ることが
できます。この記事で紹介した内容を参考に、より良い溶接技術を身につけていただければ幸いです。

参考文献

  • 溶接・接合技術持論
  • ステンレス鋼溶接トラブル事例集

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