ステンレス鋼溶接技術解説 – 種類、特性、溶接方法、注意点
ステンレス鋼は、優れた耐食性、耐酸性、機械的強度などを有し、
様々な分野で利用されています。特に、SUS304はステンレス鋼の
中で最も一般的な規格であり、全体の65%を占めています。
ステンレス鋼は、化学成分と金属組織上の分類から、マルテンサイト系、
フェライト系、オーステナイト系の3種類に分けられます。
1. マルテンサイト系ステンレス鋼
マルテンサイト系ステンレス鋼は、Feに約13%Crを含有させた
13Crステンレス鋼(SUS403, 410, 410S, 420J1, 420J2, 431など)が代表的です。
SUS431, 440A, 440B, 440C, 416などは、機械構造用鋼と同様に焼き入れにより硬化し、
高硬度、高強度を必要とする用途に用いられます。一方、溶接性は一般的に良くありません。
2. フェライト系ステンレス鋼
フェライト系ステンレス鋼は、Crを16~18%含有するSUS429, SUS430などが代表的です。
耐食性や高温での耐酸化性に優れており、建築内装用、家庭用器具、家電部品などに使用されます。
ただし、溶接割れを起こしやすいという欠点があります。
3. オーステナイト系ステンレス鋼
オーステナイト系ステンレス鋼は、18Cr-8Niを含んだSUS304が代表的です。
ステンレス鋼といえばこの規格を連想するほど一般的で、食器、建築金物、配管など
幅広い用途で使用されています。
3.1 オーステナイト系ステンレス鋼の溶接性
オーステナイト系ステンレス鋼は、炭素鋼と同様に比較的容易に溶接を行うことができます。
しかし、溶接時に高温割れ(凝固割れ)、粒界腐食、応力腐食割れ(SCC)などが発生する
可能性があるため、注意が必要です。
(1) 高温割れ
オーステナイト系ステンレス鋼の溶接時に最も発生しやすいのが高温割れ(凝固割れ)です。
これは、溶接収縮歪みが原因で発生し、割れの形態としては縦割れやクレータ割れなどがあります。
溶接金属中のリン(P)と硫黄(S)の量が多いほど高温割れ感受性は高まりますが、
フェライト量を増やすことで高温割れを抑制することができます。
(2) 腐食
ステンレス鋼は一般的に腐食しにくいと認識されていますが、それはクロム(Cr)が
腐食環境下で酸化し、緻密な不動態皮膜を形成するためです。この不動態皮膜が腐食の
進行を阻止する役割を果たしています。
(3) 応力腐食割れ(SCC)
応力腐食割れは、材料(鋭敏化、不純物など)、環境(温度、塩化物など)、
応力(残留応力、外部応力など)の3つの条件が満たされた場合に発生する現象です。
アノード溶解によって割れが進行する活性溶解型(APC)と、腐食反応によって生じた
水素が原因となる水素脆化型(HE)に大別されます。
(4) 熱影響部の鋭敏化
溶接熱影響部では、炭化物が析出し、粒界腐食が発生しやすくなる現象を鋭敏化といいます。
鋭敏化を防止するためには、溶接入熱を小さくする、低炭素ステンレス鋼(SUS304L、
SUS316Lなど)を使用する、安定化ステンレス鋼(SUS321、SUS347など)を使用する、
溶接後に固溶化処理(1000~1100℃加熱後急冷)を施すなどの対策が有効です。
4. 溶接方法
オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)の溶接方法としては、GTAW(ティグ溶接)、
GMAW(マグ溶接、ミグ溶接)、ろう付け、はんだ付け、スポット溶接、YAGレーザ溶接
などが挙げられます。
TIG溶接
TIG溶接は、精密で高品質な溶接部を形成できるアーク溶接法です。特に、溶接部の美観が
求められるステンレス製品に多く用いられます。しかし、溶接速度が遅く、溶け込みが
浅いという欠点もあります。溶接速度が遅いと溶接入熱が大きくなり、溶接変形などの問題が
生じる可能性があります。
裏波溶接(TIG溶接)
TIG溶接で裏波を出す場合は、アルゴンガスによるバックシールドが必要です。
バックシールドなしでは酸化により不完全なビードが形成されます。バックシールドガス中の
酸素濃度は1.0%以下が望ましく、約2%以上になると裏波ビードが酸化により不健全になります。
薄板の歪み防止策(TIG溶接の場合)
- 銅板などでバッキングをする
- 溶接近傍を冷却する
- 高速パルスを利用する
- 水素含有のシールドガスを使用し溶接速度を速める
近年では、ステンレス鋼の深溶け込み溶接法として、2重シールドトーチを採用した
AA-TIG溶接法も実用化されています。
参考文献
- 溶接・接合技術持論
- ステンレス鋼溶接トラブル事例集
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